ユニットお寿司御前

 

……腹が減った。

午前の時間は、なぜこうも長く感じるのだろう。
気づけば時計の針は昼を指している。自然と足は食堂へ向かっていた。

扉を開けた瞬間、いつもと違う空気に気づく。
少しだけ華やいだざわめき。
なるほど、今日はイベント食か。

席に着くと、目の前に静かに置かれた一艘の舟。

――寿司御前。

これは、予想以上だ。

舟形の器に整然と並ぶ六貫。
マグロ、サーモン、エビ、アナゴ、タマゴ、そしてしいたけ。
色彩の配置まで計算されているようで、しばし見入ってしまう。

……よし。

いただきます。


最初はマグロ。

王道には理由がある。
赤身の落ち着いた旨みが、空腹だった身体にゆっくり染み込んでいく。
「ああ、昼食が始まったな」
そんな感覚。

次にサーモン。
やわらかな脂が舌の上でほどける。主張しすぎない優しさ。
これは会話が弾む味だ。

エビ。ぷりっとした食感。
噛むたびに小さな満足が積み重なる。

タマゴは甘い。
どこか懐かしい。子どもの頃の外食を思い出す味だ。

そして、アナゴ。

……これは、いい。

ふんわりと崩れる身。
甘だれの香りが鼻へ抜け、思わず目を閉じる。
静かな幸福感というやつだ。


ここで清汁。

とろろ昆布の旨みが、賑やかになった口の中を整えてくれる。
料理の流れに“間”が生まれる。この一杯、実に重要だ。

筍の土佐煮。
春の気配を感じる歯ざわり。季節を食べている感覚。

周囲を見渡すと、自然と笑顔が増えている。


普段はゆっくり食べる人の箸も、今日は少し軽やかだ。

食事は栄養だけじゃない。
空気も一緒に変える力があるらしい。


最後に、いちご。

甘酸っぱさが口の中をリセットし、食事の幕を静かに下ろす。
完璧な終わり方だ。

気づけば、皿は空。
舟は役目を終え、静かに港へ戻った。

……満たされた。

特別なことをしたわけじゃない。
ただ昼ごはんを食べただけ。

それなのに、少しだけ今日が良い日になった気がする。

ごちそうさまでした。

 

(※サムネイルはイメージサンプルです。)